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エラスムスとルターの自由意志論争 9

結   論

 「自由意志」や「義認論」などを通して二人の相違を見てきたわけであるが、このような観点で今一度『評論・自由意志』『奴隷的意志について』を見てみると、微妙な論争の一言一言の食い違いに合点がいくのではないだろうか。例えばルターは律法をなすことは罪の何ものでもない。律法を守ることは善ではなくてかえって悪である。と言っているわけだが、これは彼が新約という次元から見ているために生じた解釈である。それゆえ旧約聖書の解釈を無理にまげている所が多々ある。例えば「これはちょうど次のように言おうとしたともいえる。すなわち『もしあなたが欲するなら』、『もしあなたが欲するようになれば』とは、言いかえれば、『もしあなたが神のもとで、神があなたを戒めを守ろうとする意志にふさわしくされるようなものであるならば、あなたは≪戒めを≫守るであろう』というように。こういう転義をもって、二つのこと、すなわち、私たちは何事もなしえない、しかし、何事かをなすとすれば神が私たちのうちにそれを働きたもうのである、ということの認識が与えられるであろう(1)」ルターの信仰次元から律法について言及するならば確かにこの通りであろう。罪に支配されている人間は律法によって罪を認識させられるのだと。自分の意識内の行為、思考の選択における人間の自由の立場から、無意識内の動機の中に罪の存在を見つける時に実感せざるを得ない、一つの律法の認識形態ではあろう。しかしこれが律法の第一位的な使命ではないのである。
 律法はエラスムスが言うように、ちょうど善悪の二股道にさしかかった人間にこっちの方向に進みなさい。善なる方向に進みなさいと言って正している言葉なのである。律法はこういう意味においてその本来の使命をはたしている。すなわち善なる道標としてイエス以前の、旧約聖書に出てくる人々の時代において人間を善へと正し、善なる行ないをさせようと導いたのである。
 旧約時代の律法と新約時代の福音とでの一番の違いは動機が入っているかいないかであると思われる。律法は行ないを正すための訓戒であったが、福音においては行ないだけでなく動機が問われる。たとえ行ないが善くても動機が悪ければそれは悪なのである。
 エラスムスとルターの、この信仰観の相違を示唆しているのではないかと思わせるような興味深いことをヤスパースが言っている。少し長いが、この自由意志論争自体とその背後にあるものを私たちに的確に教えせしめているように思うのでそのまま引用する。
――堕罪の後には、次のようなことが次々に継起する。第一には、神の立てる律法(十戒)が生じる。人間は、律法を充たそうとしてそれが不可能なことを知る。彼のもつ不満足のために人間は、自分の罪の状態と、絶望とをみてとるに至る。第二には、神が救済のためにつかわすキリストへの信仰が生じる。この信仰の中で、人は自分自身の意志を放棄して、恩寵が自分の罪の状態の中に入ってくることを経験する。第三には、愛が生じる。人間の信仰に対して愛が贈られ、その愛によって、罪からの本来的な救いが与えられる。第四には、律法の充足が生じる。それはもはや律法の当為を無益に充足することではなくて、愛の結果として律法を充足することである。かくて、自由意志が存在することになる。この自由意志は、それが愛するものであるが故に、正しいことを完全になすものであるが、しかし、自分の力によってでなくて、神によって成就されるものだという意識の中で、この正しい行為がなされるのである(2)――
堕罪後の四段階の過程は、時間系列を説明するものとしてのみ考えてもらいたい。人間はすべてこの時間系列の中にいるわけで、エラスムスとルターも然りである。ただ二人の立脚している時点が違っていた。ルターはこの時間系列の中での魂の相互継起にその意識のほとんどがいっていたわけであるが、エラスムスは教義的な公式化に、その内にあるものを公式的客観化することにもっぱらその意識がいっていたのである。それぞれ体験的、哲学的という言葉で本論において述べたが、各々その位置するところでそれぞれの働きがある。
 エラスムスもルターも協力し合いながら歴史に業績を残すということはなかったが、しかし二人が各自のスタンスで目覚しい活躍と後世への遺産をのこしてくれたのは言うまでもないことである。私はこの二人を聖書の時代区分に照らし合わせて、すなわち時間系列をもって別けたが、それは短絡的に人間の優劣に結びつくのではないことを申し上げたい。やはり近代幕開けの巨匠として、それぞれの場で違った方法により歴史に大きく貢献し、大きな遺産を残したのであるから。

 注(1)ルター、287ページ
  (2)ヤスパース、165ページ
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Author:heban
東京都出身
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